大判例

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盛岡地方裁判所 昭和25年(行)37号 判決

原告 本宮鉄五郎

被告 岩手県知事

一、主  文

被告が昭和二十五年一月五日附岩手か第一、六二三号買収令書をもつて岩手県二戸郡荒沢村大字荒屋字叺田百三十八番の一田三畝十二歩、同字百七番田一反七畝二十八歩、同大字字新町百三十六番の一田二十七歩についてなした買収処分はこれを取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求原因として、岩手県農地委員会は地元村農地委員会の権限を代行して昭和二十四年十月二十八日主文第一項掲記の農地三筆計二反二畝七歩につき同二十年十一月二十三日(以下基準時と称する)現在の事実に基き旧自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)第三条第一項第二号による買収計画を定め、同二十四年十一月九日これを公告しその後所定期間その書類を縦覧に供した。そこで原告は同年十一月二十日同県農地委員会に異議の申立をなしたが、同月二十三日棄却されたので、更に同二十五年二月十六日被告に訴願を提起したがこれまた同年六月十二日棄却され、その裁決書が同月二十四日原告に交付された。一方被告はこれよりさき右買収計画を承認のうえ該計画に基き主文第一項掲記の買収令書を発行し、これを同年四月十五日原告に交付して右農地三筆の買収処分を行つた。

しかしながら右買収処分は次の理由により違法である。

一、右農地三筆はいずれも昭和二十年秋まで訴外五日市春治に小作させていたが、同年十月中旬頃合意解約により同人から返還を受けたもので、基準時当時原告の自作地であつたものである。右買収処分はそれを原告の小作地であるとして買収した点において違法である。

二、かりに右返還が基準時以後になされたとしても原告は該返還にあたり右春治に代替地として原告所有の岩手県二戸郡荒沢村大字荒屋字新町八番畑一反歩、同大字字寺志田百十番畑一反五畝歩及び同字九十九番田一反八畝歩を与えてこれを小作させたのであるから、右は自創法第六条の二第二項第一号にいう適法且つ正当な解約である。従つてこのような場合いわゆる遡及買収をなすことができないのに、右買収処分は前記のとおりこれをなした点において違法である。

三、またかりに右買収農地計二反二畝七歩が基準時において小作地であつたとしても、原告の基準時現在における所有田畑の総計反別は三町三反七畝六歩で、その内訳は荒廃地二反三畝十九歩、小作地一町八反九畝四歩(このうち前記買収計画以前の買収計画に基き買収された土地は一町一反八畝二歩、残保有小作地は七反一畝二歩)、自作地一町二反四畝十三歩であるから、右買収処分は保有制限限度内における農地を買収した点において違法である。

四、右買収処分は前記のとおり買収令書の交付が訴願裁決書の交付以前になされている点において手続上違法である。

以上の次第で右買収処分は右いずれの点においても違法であり、取り消さるべきものであるから、その取消を求めるため本訴に及ぶと陳述した(立証省略)。

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、答弁して、原告主張の事実のうちその主張の農地三筆がもと原告の所有であつたこと及び右農地につき原告主張のとおりの経過の買収手続が行われたことは認める。また原告主張一の点につき右農地を訴外五日市春治が耕作していたことは認めるが、その余は否認する。右農地は基準時当時右春治の小作地であつたが、昭和二十一年三月頃原告が不法にこれを取り上げて耕作するに至つたものである。同二の点につき右春治が原告が代替地と主張する農地を耕作していたことは認めるが、その余は否認する。右は前記取上農地の代替地として耕作しているものではない。ことにそのうち字寺志田九十九番の田一反八畝歩を除く二筆は春治の先代時代から小作して来たものである。従つて自創法第六条の二第二項のいずれの場合にも該当するような事情はない。同三の点は争う。原告の基準時現在における所有田畑の合計反別は三町一反一畝二十九歩で、その内訳は小作地二町三反十二歩、自作地八反一畝十七歩であつたから、原告主張の計二反二畝七歩の小作地の買収は保有制限を超過する小作地の買収として違法はない。たとえその後の買収において保有制限を割る買収があつたとしても、それがそれらに先き立つ前記買収の違法をもたらすいわれはない。同四の点について前記買収令書の交付の日が前記訴願裁決書の交付の日以前であることは原告主張のとおりで争わないが、結局において訴願は棄却され右買収処分は維持されたのであるから、そこになんら違法はない。以上の次第で原告の請求は失当であると陳述した(立証省略)。

三、理  由

主文第一項掲記の農地三筆がもと原告の所有であつたこと、岩手県農地委員会が地元村農地委員会の権限を代行して昭和二十四年十月二十八日右農地につき基準時現在の事実に基き自創法第三条第一項第二号による買収計画を定め、同年十一月九日これを公告しその後所定期間その書類を縦覧に供したこと、これに対し原告より同年十一月二十日同県農地委員会に異議の申立があつたが同月二十三日棄却され、更に同二十五年二月十六日被告に訴願の提起があつたが、これまた同年六月十二日棄却され、該裁決書が同月二十四日原告に交付されたこと及び一方被告がこれよりさき右買収計画を承認しこれに基き主文第一項掲記の買収令書を発行し、該令書を同年四月十五日原告に交付して右農地三筆の買収処分を行つたことは当事者に争がない。

ところで原告は本件買収手続につき買収令書の交付が訴願裁決書の交付以前になされたことをもつて本件買収処分の違法理由の一つに挙げているので先ずこの点から考察する。

自創法第六条ないし第九条及び第四十七条によれば農地の買収手続は買収計画から買収処分に至るまで段階的一連手続をなしており、この段階の一つ一つを履んで最後に買収令書を交付することによつて買収処分が完了し買収の効力が生ずるのである。自創法がこの各段階の履践を要求するのはこれより買収手続の慎重を期すると共に被買収者の利益を保護しようとするからである。これを訴願について観ると訴願はいうまでもなく被買収者の利益を保護するため認められたもので、買収計画に対する異議の決定に不服ある被買収者はこれにより上級の買収機関に対し買収計画の再審査を求めその判断である裁決を受ける権利を与えられているのである。しかして自創法は訴願のこの利益保護の目的を十分に達成するため買収手続において訴願があつた場合その訴願手続を買収計画の承認手続及びこれに続く買収処分手続の先行段階にあるべきものとしている。すなわち訴願手続によつて被買収者に右利益の擁護を尽さしめたうえでなければ買収機関は買収計画の承認及び買収処分を行つて買収手続を完了することができないのである。ところが本件買収手続においては訴願裁決書の交付に先き立つて買収計画を承認のうえ買収令書の交付がなされたことが明瞭であつて、かくては訴願手続の完了前に買収処分が完了し、訴願の目的を達しないまま買収の効力が発生すべきこととなり、結局訴願による被買収者の前記権利を無にする結果となる。かように買収手続において法が被買収者に与えた権利を無視してなした買収処分は明らかに違法であるというべきであり、しかもこの違法は重大であつて、たとえ本件におけるようにその後において買収処分を維持する訴願棄却の裁決書の交付があつたとしても右の違法は治癒されるべきものではない。

果してそれなら本件買収処分は爾余の点につき判断をするまでもなく、既に手続の面において重大な違法があり、取消を免れないものといわなければならない。

よつて原告の請求を正当として認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 村上武 上野正秋 佐藤幸太郎)

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